昨日のカレンダー 〜その2〜
三成和輝 1
小さな頃のあだ名はルパンだった。
僕がまだ小学生だった頃、クラスのある男子が、「みなり」という僕の名字を「さんせい」と読んだのが事の始まりだった。
いつの間にか1学年8クラスもある学校の大半が僕のことを「ルパン」と呼ぶのになった。
きっとあだ名の命名者が学年きっての人気者だったことが主たる要因だろうと思う。
僕も僕でその呼び名に対し、「ルパーンさーんせい」など言ってモノマネをしていたのがいけなかった。「映画の中でルパンはこんなこと言わないのに」なんて思いながら、それらを繰り返す日々。
嫌われたくなかった。
中学2年の頃、サッカー部の夏合宿の途中、急に部員全員からハブにされるようになった。
練習中は組むペアが最後まで見つからず、最後に残った一人が渋々僕の相手をしてくれた。
皆、最後の一人にならないよう必死だったが、その表情は楽しくてしょうがないといった様子で、それがまた僕の心にグサグサと刺さった。
合宿中に数名が故障して合計人数が奇数人になると、僕は相手を探す素振りも見せず、最初から一人で練習をするようになった。
それくらいは大したことはなかった。
いざゲームが始まるとフォワードの僕に対するアタックは半端がなかった。行く手を阻むスライディングは当たり前、タックルの応酬、そして、罵声。
一番面倒なのはボールをキープしていないときだった。
サッカーはボールがない場所でのタックルや野次の飛ばし合いが激しいスポーツだと僕は勝手に思っている。
だからサッカー中継を見ていて、テレビ画面の端でやりあっている連中を見ると、あの頃の出来事が苦虫となって顔を出す。
その当時僕だけが仲間外れにされた理由は良くわかなかったが、1つハッキリしていたキッカケが、キャプテンでもあり、クラスの人気者でもあった男子が「何か最近ルパン、ムカつくよな。ハブにしようぜ」と数人のチームメイトを焚き付けたことだった。
キャプテンと僕は同じクラス。そう、僕のことを「ルパン」と呼び始めたアイツだ。
男っ気の溢れるスポーツにも関わらず、そういった女子のような陰湿さに腹が立った。
あの野郎、今に見てろ。いつか見返してやる。そんな気持ちとは裏腹に、僕の行動は相手に合わせていくことが多くなった。
初めのうちは媚び諂うような態度になってしまいがちだったが、高校に入ってからは、相手を観察し、相手の望んでいることや意識の向いている対象を見抜く力が人よりも抜きん出るようになっていた。
人間関係って結構おもろいかもしれない。
そう思い始めた時期でもあった。
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