最近気になっていること。



ハトの子供はどこにいるのか? 見たことありますか? 僕はありません。



きっと世界のどこかにはハトの子供の巣窟(そうくつ)のよう場所があって、そこで親バトたちが子バトたちにせっせと餌やりをしているんでしょう。



ところで子バトたちの餌はどんなものなんでしょう? 



「そんなことも知らないの?」と彼女はくすくす笑いながら僕に言う。秋のすすきのようなフワフワとした声だ。



「人の夢とか?」と僕は当てずっぽうに言う。



それはバクでしょう? と彼女は言う。そしてひとつため息を付く。彼女は呆れているのだ。「母乳で育てるのよ」



「それじゃあまるで哺乳類じゃないか。ハトは鳥類だ」と僕は訂正する。「それに、ハトの乳首なんて見たこともないし、どこにあるのかもピンとこない」



「あなたがピンと来るか来ないかは問題じゃないの。そこにハトの乳首がある、ただそれだけよ。見たことがないからって、それがそこにないとは限らないでしょ? 戦争やミサイルと同じよ」



「ふうん」と僕は言う。そして、ハトの乳首も硬直するのかな、などとくだらないことを考える。



僕らは晴れた秋の昼下がりに新宿御苑のベンチに座りながらそんな会話をしている。芝生の上にはダルメシアンの模様のように枯れ葉がところどころに落ちている。



「あなた、今くだらないこと考えてるでしょ?」と彼女が言う。「そういう顔をしてる」



「そんなことはないよ。ハトと平和とトレヴァーの小説について考えてた」



「どんな小説?」



「男と女の不倫の話さ。こうしてベンチかどこかに座って二人で話をするんだ」



「それはハトの話?」



「いや、違う」と僕は言う。「離婚の話だよ」



彼女はとくになにも言わなかった。空には何本か飛行機雲が走っていて、風に散ってゆっくりと形を変えはじめていた。



彼女は脚を組み直して、かかとの低い赤いパンプスをつま先に引っ掛けるようにしてぶらぶらと揺らした。



アキレス腱の部分には絆創膏(ばんそうこう)が2枚貼られていた。靴のサイズが少しだけ大きいのかもしれない。




「ねぇ、ところでさ」と僕は言う。



「木星はその大半が気体で出来ているらしいんだけど、僕らが宇宙空間に出ていって、勢いよくボールなんかを投げてぶつけたら、木星の反対側からボールが飛び出てきたりするのかな?」



彼女はなにも言わずにじっと僕の方を見つめて、小動物のように少し首を傾げた。それからまた目の前の芝生に視線を戻してから言った。「あなたってほんとうにくだらないことばかり考えているのね」



「まったくもって僕もそのとおりだと思う」



、、。



という空想の会話です。それにしても、ハトの子供ってどこにいるんでしょう?(Essay 22 おわり)

言葉のちから

僕らの言葉と想いと行動が きっと世界を変えていく 少しだけいい方向に

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