文章的スケッチ。
僕のもとから、また一人、誰かが離れて行った。
その人との関係は、
ちょうど木星が「てんびん座」に位置していた時期とほぼ符号していた。
つまり去年の9月9日頃に出会って、
今年の10月10日に頃に別れたわけだ。
僕は34歳で、まだ何者でもなくて、
文章を綴るくらいしかできることもないような人間だった。
これではまるで『ダンス・ダンス・ダンス』の世界じゃないか、と僕は思った。
たしかあの主人公も今の僕とおなじ34歳と2ヶ月か3ヶ月だった。
別に小説の彼を模倣したい気持ちなんて僕にはさらさらないのに、
まるでそこに僕の人生が吸い付けられるように、事が運んでいく。
入口と出口。一方通行。
僕の人生で幾人もの人々が入口から入ってきて、出口から出ていった。
彼らのうちの数人と、僕は親しくなった。
僕は彼らに心を許した(きっとそれは彼らも同じだろう)。
でも、最後には必ず、みんな出ていってしまう。
そして一度出たら最後、
彼らが僕の部屋に戻ってくることはなかった。
この部屋は一方通行なのだ。
入口と出口。
でも一度だけ、もう出ていってしまったと思った人が戻ってきたことがあった。
僕は自分の部屋を整えて、その人を迎える準備をした。
今まで捨てずに抱えていたものや、
邪魔になったものを整理してゴミ袋に入れ、
不要なものは捨てて、売れそうなものは売った。
そうやって必要なものとそうでないものを分別した。
その人をまた迎えるためだ。
入口と出口。季節は秋だ。
僕らは会って、散歩をした。
僕はまた誰かが僕の部屋に来たのだと思って少し浮ついていた。
今度こそ戻ってきてくれたのだと思った。
でもそれは違った。
その人はただ「出口付近」に戻ってきただけだった。
しっかりとした別れを言いに来ただけだった。
僕の部屋はいつも一方通行なのだ。
わかっている。
一方通行。
こちらが冷めているときには、あちらは熱っぽくて、
こちらが熱くなりだすと、あちらは冷めはじめる。
熱の転換。放熱。カロリーの移動。
エネルギー保存の法則。
そうやってまた僕がきちんと誰かと向き合えるタイミングになったとき、
たいてい相手はもう僕の部屋から出ていってしまっている。
そのときはもう、手遅れなのだ。
僕はこうして文章にすることによってそれらを整理し、
他の誰かになりきることであのときの事象をもう一度検証したり、
別の可能性に思いを巡らせているだけなのかもしれない。
淡い記憶と熱をそこに留めるために。
入口と出口。一方通行。季節は秋だ。
僕はまた、誰かとまた深くつながれるのだろうか。
(Essay 19 おわり)
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