手紙。
台風が通りすぎるたび、
空は少しずつ高くなり、
残暑はもう、
駅のホームのベンチくらいにしか残っていなくて。
通り過ぎる風にも次の季節が混じり始めている。
君から手紙が届いたのは、
たしか、そんな、台風と台風の切れ間の、
季節と季節の合間の、そんなときだった。
君が手紙を書いてくれたのは、
もう過去のことで、
今の君は厳密には、これと同じことを、
感じていないのかもしれない。
手紙にはいつも、そんな危うさが含まれていて、
想いや気持ちを、ペンに乗せた瞬間、
それは文字となり、文になり、そして過去になってしまう。
ペンの速度が、気持ちに追いつかず、
歯がゆい思いをしたのか、
それとも、なかなか言葉が出てこなくて、
少しもどかしい思いをしたのか、
それも今となってはもう分からないし、
そもそもそんなことを感じたのかすらも分からない。
いっぱいの想いと葛藤と、グチャグチャで、
心から溢れた気持ちを、なんとか言葉にして、
くれたんだろう。
言葉は無力だって、いつか君は言っていた。
いつも完全には、思いを伝えられないから。
君からの手紙を読んで、
僕ってなやつは、
いったい何を思ったのだろう。
夏は終わり、やがて秋は冬を連れてくる。
夏が冬に会えないように、
秋が春に触れられないように、
二人はきっと、もう会うことも、
触れあうことも、ないんだと、
心のどこかで分かっているからかな。
あの日、僕は君に、
思い切り手を振って、
別れを告げたんだ。
単なるいつも通りなお別れなのに。
夕日混じりの交差点にかかる歩道橋。
音もなく変わる信号機。
生ぬるい風。
そして今は、台風前夜。
僕は静かに手紙を置く。
さてと。
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